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更新日:2023年4月1日
研究成果の紹介に力を入れています
森林には様々な働きがあり、森林があることで私たちのくらしに恵みを与えていると考えられます。
昨今の集中豪雨や台風による被災状況をみれば、森林が持つ自然災害の防止機能に期待するとともに、常日頃から森林の働きを高めておくことの重要性を感じます。
健全な森林はこうした機能も高いと考えられ、適度に木を伐って森林内を明るい状態にするなどの管理が必要ですが、長らく人の出入りがなく、暗く茂った森が時々見られます。原因はいくつかありますが、一番の問題は林業の低迷でしょう。林業は、経済活動を通じて森林の適切な維持管理につながる産業ですが、経営が成り立ちにくく、所有者自らが手入れすることが難しくなっています。
一方で、木材は経済発展が著しい国での消費が増えており、世界中で需要が高まっています。またエネルギーや化学原料等への利用も増えると見込まれており、木材供給を担う林業に対する産業界の期待は高まっています。林業経営の基本である、「伐って」「植えて」「育てる」の循環を守りつつ、効率的に経営することが、適正な森林管理を実現するための一歩といえます。
あらためて森林研究の目的を問えば、林業振興に寄与することに止まらず、森林の多様な機能を最大化して、県民生活に森林の恵みを享受することにあると思います。
当センターは、立派な森となる苗をつくる、病獣害から森を守り、健全に育てる、効率的に木材を収穫する、木材は上手に使う、森の恵みであるきのこや山菜を利用する研究を実施しており、いずれも森林の働きを最大化する取組であります。
ここで研究の一つを紹介させていただきます。令和4年度はあらたに、クラウドファンディングで研究費を募集して、無花粉スギ苗の品種開発に取組みました。
募金を始めると、研究成果を期待する県民の声をたくさんいただきました。結果として、目標金額を確保して研究に着手できたので、無花粉スギの品種認定ができました。この取組で、花粉症に悩む県民へ解決策を提案できたのではないかと考えています。
今後も研究の成果を一日も早く社会実装できるよう研究員及び、職員一同頑張っておりますので、研究活動への御協力・御支援をお願い致します。
超多収で炭疽病に強い「95-7-35」(上)とスミレ様の甘い香り「90-2-213」(下)
近年、ドリンク飲料等の原料茶や海外における有機茶等の需要が増加しており、生産現場からは低コスト生産に向く多収性品種や有機栽培に向く耐病性品種が求められています。一方、消費者サイドからは、嗜好の多様化によりこれまで以上に香味等に特徴のある品種も求められています。茶業研究センターでは、こうしたニーズに応える2つの新品種候補「95-7-35」、「90-2-213」を育成しました。
「95-7-35」は、生葉収量が「やぶきた」の約2倍と超多収性であるとともに、重要病害の炭疽病にも強いため、ドリンク原料の生産や有機栽培にも適しています。荒茶品質は形状・色沢・水色が優れ、総合的に良好です。また、一番茶摘採期が「やぶきた」比+6日と遅いため、製茶工場の稼働日数の拡大や労働分散を図ることが可能です。
「90-2-213」は、一番茶摘採期が「やぶきた」とほぼ同じであり、生葉を萎凋することでスミレ様の甘い香りが際立ちます。香りが特徴の品種「香駿」を上回る「香り緑茶」適性があり、中山間地等において特徴ある茶の商品開発に適しています。
(茶業研究センター 茶生産技術科 主任 鈴木 康孝)
チャノキイロアザミウマ(右)を捕食するコウズケカブリダニ(左)
果樹園に発生する微小害虫は薬剤抵抗性が発達しやすいため、農薬のみに頼らない防除方法が求められています。そこで果樹研究センターでは、土着天敵を利用した害虫防除技術を開発し、生産性の向上と環境負荷の低減に取り組んでいます。
「コウズケカブリダニ」は、県内の様々な果樹園に生息する土着天敵です。この天敵は害虫だけでなく、花粉等の植物質の餌を摂食して害虫の密度が低い時期から果樹上に定着することができます。
コウズケカブリダニは春から初夏にかけて樹上で増殖するため、この時期に使用する農薬を天敵に影響の小さいものに変更するとともに、200匹/樹を複数回放飼することで、この天敵の密度を高めることができます。なお、この天敵はシラカシなどの周辺植生から採集できます。
この方法により、カンキツやニホンナシ、ブドウのハダニ類やサビダニ類、アザミウマ類といった複数の害虫を同時に防除することが可能です。この防除技術は他の園芸作物にも応用できることから、生物的農薬としてコウズケカブリダニを利用できるように製剤化についても検討しています。
(果樹研究センター 果樹環境適応技術科 主任研究員 土田 祐大【現所属:静岡県庁 食と農の振興課】)
お問い合わせ先
静岡県農林技術研究所
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