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更新日:2023年5月30日
農林技術研究所は、先端農業を推進する「AOI(アオイ)プロジェクト」の拠点施設として、平成29年8月3日に開所した「AOI-PARC(アオイパーク)」に、「次世代栽培システム科」を設置しました。
AOI-PARCには、学術研究機関として、慶応義塾大学、理化学研究所、農林技術研究所が入居し、(一財)AOI機構が運営する会員制組織「AOIフォーラム」に所属する民間事業者の新規事業開拓に寄与するシーズ技術の開発や、AOI-PARCの入居企業が行う研究開発の支援等を行っています。
次世代栽培システム科では、 現在、最先端の次世代型栽培実験装置(栽培ユニット、パラメータフル制御装置)及び研究用温室(太陽光利用型高度複合環境制御温室)等を活用し、低資源投入型栽培管理技術の開発や、農産物の機能性成分の向上技術の開発、効率的育種技術の開発等に係る研究を実施しています。また、民間事業者支援の一環として、受託研究等の成果の取りまとめ、開発技術の実用化、広報及び販売等に対するアドバイスも行っています。
AOIプロジェクトの目的であるオープンイノベーションの推進にあたっては、AOI-PARCの連携機関(慶應義塾大学、理化学研究所、AOI機構等)及び入居事業者間の交流を通じて、新たな事業コンソーシアムの形成を促進し、民間事業者等が参画できる外部研究予算の獲得にも協力しています。
今後も次世代栽培システム科では、民間企業の事業拡大及び農業産出額の増加のため、農作物の環境応答に関する生理生態解明を行い、植物生産の高機能化・高品質化・高収量化・低コスト化に寄与するとともに、経験の浅い人が容易に栽培管理でき、収益性が高く、安定した生産を確保できるスマート農業を実現して参ります。
図 HeSo+の使用例(ログイン/診断/対策結果入力) 全国平均精度は73.6%(静岡の検証では87.8%)
植物病害の中でも土壌病害は、発生が畑ごとの条件に大きく影響されるため、地上部病害より被害予測が難しくなっています。そのため、結果的に過剰な作業や費用を掛けている事態も起きています。そこで、当研究所は、個々の畑での「土壌病害の発生しやすさ=発病ポテンシャル」を栽培前に診断・評価し、そのレベルに応じた対策手段を講じる方法論HeSoDiM(ヘソディム)に基づいて、JAの営農指導員などが生産者に適切にアドバイスするのをサポートするAIアプリ「HeSo+」の開発プロジェクト(10病害)に参加しました。農研機構が主導し、当研究所は群馬県、神奈川県と共にネギ黒腐菌核病のアプリ開発に携わりました。本アプリは、地図上に登録した畑について、前作の発病程度、畑の汚染度、土壌理化学性などを基にレベル1(無防除で廃棄5%未満)~3(同 20%以上)の発病ポテンシャルで評価し、レベルごとの対策を提案します。
(農林技術研究所 植物保護・環境保全科 科長 伊代住浩幸)
図 ナガマドキノコバエの幼虫
近年、菌床シイタケの生産現場では、キノコバエの一種であるナガマドキノコバエ(以下「ナガマド」)の幼虫が、シイタケの傘表面を食害したり、幼虫が傘に付着したまま出荷時に混入しトラブルを引き起こすことが問題となっています。そこで当センターでは、ナガマドの詳細な生態調査を行い、より簡易で効果的な防除法を開発しました。
実験の結果、菌床へ毎日1時間のミスト散水を行うことで、同様に30分散水した場合と比べてナガマドを約2倍防除できることを解明しました。さらに、散水する時間帯を日の出の時間にすることで防除効果が高まる可能性も示されました。ナガマドの成虫は日没後から夜半にかけて菌床へ産卵します。そのため産卵直後の日の出に散水することで、何らかの要因により卵が死亡または孵化できなくなるのではないかと考えています。
今回開発した防除法は、シイタケの発生促進のために散水を実施している施設であれば、時間帯の調整だけで導入可能な技術です。今後は生産現場での実証を進め、ナガマド防除の負担軽減となるよう、技術確立と普及を進めてまいります。
(森林・林業研究センター 森林育成科 主任研究員 内山義政)
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