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更新日:2021年10月1日
ドローンでの薬剤散布試験(上)と作業者に自動追従ロボットと機械化に対応した垣根型樹形の開発(下)
果樹は生産者の高齢化による担い手の減少が続いており、本県の主要品目である温州ミカンにおいては全国的に供給量が需要量を下回り、国もこれまでの生産過剰を防ぐ方針から、積極的な生産拡大へと転換してきています。しかし果樹園の40%以上は未だ傾斜地にあり、機械化による効率的な生産が難しく、担い手への農地の集積や規模拡大が進んでいません。
そこで、果樹研究センターでは近年急速に技術革新が進んでいるドローン、ロボット、AI等の先端技術を活用し、果樹園における省力化・機械化研究に取り組んでいます。
ドローンなどの無人航空機を活用した農薬散布は、機械化が難しい傾斜地での利用が期待される技術です。立体的な構造の果樹園では、機体からの吹き降ろしの風を利用し、少ない水量の薬液を効率良く効果的に散布する必要があります。このため、濃厚少量散布に適した薬剤の選抜や、機体の飛行ルート、散布ノズルの粒径、気象など様々な条件設定を明らかにし、効果的な運用方法の確立を目指しています。
また、収穫と運搬の作業は重量物を人力運搬する場面が多く、果樹園の作業の中では特に機械化による省力化が望まれています。右の写真はこの様な場面で活用するために開発したロボットで、荷物を載せた台車が作業者の後方を自動で追従走行するとともに、準天頂衛星「みちびき」の電波を利用し、園内の通路を誤差10cm程度の精度で自律走行もでき、傾斜25度の悪路も走破できます。これら機械開発と平行し、従来の立体的な樹形に比べ枝の配置を単純にし、作業時間が短く、作業者の負担が少ない垣根型の新たな樹形開発にも取り組んでいます。
最後に、果樹園の管理の多くは生産者の経験値に依るところが大きく、目の行き届かなくなった温州ミカンの園地では、隔年結果の拡大が問題となっています。そこでドローンで撮影した園地の画像解析とAI技術を使った生産管理技術の開発を進めています。これにより、将来は樹毎に異なる栄養状態の把握や適正な着果量の目標数値が効率よくパソコンやスマホ上の画面で把握でき、経験値の少ない人にもわかりやすく、精密な管理による安定生産、安定供給につなげていくことが出来るようになります。
果樹研究センターでは、これらの取り組みを始めとし、今後とも現場の課題や要望に向き合い、迅速かつ丁寧に研究開発を進め、関係機関と連携し静岡県の果樹農業の発展に貢献していきます。
本県は全国でも有数の歴史あるイチゴ産地であり、自然環境や物流条件など恵まれた立地条件にあります。また、イチゴは静岡野菜の中で産出額第1位(111億円,R1)の品目です。静岡産イチゴの主な流通地域は首都圏で、その品質評価は高く、高価格で取引されています。しかし、高い需要に対して供給量不足が課題となっている他、生産現場からは収穫量の増加や病害虫対策、省力化について強い要望があります。そこで、当所では今年度から次の3つの課題について取り組み始めました。
①‘きらぴ香’の長所である「早生性、連続出蕾性を有し、高品質で良食味」な特性を活かし、従来よりも長期間収穫・出荷が可能で、クリスマス需要にも対応する栽培技術の開発 ②イチゴ栽培の多収化に寄与する光合成の最大化を目指して、栽培管理における生産者の意思決定を支援してくれるナビゲーションシステムの開発 ③主に炭疽病とアザミウマ類をターゲットとし、抵抗性誘導技術、天敵、忌避資材の活用などによる総合的防除体系の確立
これらの技術開発により、従来以上に収穫量を増大させて売上の向上に貢献したいと考えています。
(農林技術研究所 野菜生産技術科 科長 河田 智明)
赤焼病の典型的な病徴(左)と台風襲来後の病徴(右)
チャの重要病害である赤焼病の生態特性や防除技術については、いまだ不明な点が多く、生産現場では対応に苦慮しています。このため、茶樹上での本病原菌の生態特性を明らかにし、それに基づいた的確な防除技術を確立する必要があります。
そこで当研究センターでは、本病原菌の茶樹上での生態特性の解明と防除技術の開発に取り組んできました。
本研究から、赤焼病菌は年間を通じて茶樹内に常在していることが明らかとなり、風雨等により茶樹に傷や障害が生じると、これらの部位に菌が移行して、増殖するものと考えられました。
赤焼病の防除適期としては、①台風等の強風雨の前または後、②秋期、③2~3月の時期であることがわかりました。さらに高い防除効果を得るためには、赤焼病の初発を確認したらすぐに殺菌剤を散布し、その後発病状況をみながら追加防除することが重要となります。なお、本研究は、農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」の支援を受けて実施しました。
(茶業研究センター 茶環境適応技術科 上席研究員 市原 実)
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