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更新日:2022年4月1日
種なし古山ニューサマー(左上)と在来ヒュウガナツ(右上)、マーガレットとローダンセマムの属間雑種 伊豆43号(左下)伊豆44号(右下)
伊豆農業研究センターが立地する県内屈指の観光地である伊豆半島では、ここ数年、「静岡水わさびの伝統栽培」の世界農業遺産認定、伊豆半島ジオパークのユネスコ世界ジオパーク認定、東京2020オリンピック・パラリンピックの自転車競技の開催、伊豆縦貫道の工事の進捗など、明るい話題が増えてきております。
当センターでは地域の観光を含めた産業の活性化に向け、地域特産のニューサマーオレンジ、カーネーション、マーガレット、カワヅザクラ、ワサビ等の研究に取り組んでいます。
果樹では伊豆の初夏の香りと味を代表するヒュウガナツの生産力の強化に向け、老木で大木化した樹を、地上部50cmの主幹部で切除し、そこから再生した枝を活用し改植せずに、省力的に栽培するカットバック栽培を開発しています。また、ブランド力を高めるため、河津町で発見され、単為結実性が高く、種なし栽培が可能な‘古山ニューサマー’の高品質安定生産技術を開発しています。さらに、輸入のグレープフルーツに対抗し開発された、種なしの文旦‘汐里’(しおり)や‘瑞季’(みずき)などの地域適応性や、早期成園化のための技術開発を、京都大学や、広島県、宮崎県等と連携し行っています。
花きでは特産であるマーガレットやカーネーション、キンギョソウで、市場性が高く、夏季の暑さに強い品種の開発や選抜、また生産力の強化に向けたLEDの活用技術等を開発しています。マーガレットでは、ローダンセマム等他のキク科の植物と交雑し新たな花色や香りを持つ品種や超耐暑性品種を開発し、南伊豆町の国道136号線のマーガレットラインを彩りたいという想いを持って取り組んでいます。
カワヅザクラは110万人の観光客を引き寄せる魅力ある観光資源です。当センターでは、今から40年ほど前から増殖、開花予測や、開花調節技術を開発し、現在は町やJA、観光協会等と一体となり、切り枝として利用販売する技術開発に取り組んでいます。
ワサビでは新成長戦略研究として、次世代に向けた戦略的な品種の育成に取り組みます。消費者や業界のニーズに迅速に対応できるよう、遺伝子情報のビックデータを活用し、オーダーメードで従来の育種期間を半減できる技術を開発するとともに、品種の国内外への流失を防止するための品種識別技術を開発します。
センターでは、今後も地域と連携し、地域特産の農産物等の生産を通じて、伊豆半島の魅力を発信できる研究に取り組み、地域の産業や、観光で訪れる方々に豊かさをもたらすことができるよう研究開発を進めてまいります。
超多収性「95-7-35」(上)、花様の甘い香り「90-2-213」(下)
近年、ペットボトル茶飲料等の原料となる茶の需要増加から、低コスト生産に向く多収性品種が求められています。一方、消費者の嗜好の多様化から、香味に優れた特長ある品種も求められています。茶業研究センターではこれらのニーズに応えるため、超多収性の「95-7-35」(系統番号)と、花様の甘い香りを持つ「90-2-213」(系統番号)の2つの新品種候補を育成しました。
「95-7-35」は、生葉収量が「やぶきた」比2倍の超多収性であり、荒茶品質は形状・色沢・水色が特に優れ、総合的に良好です。一番茶摘採期は「やぶきた」比+6日と遅く、労働分散が図られ、ペットボトル原料茶生産に適するのはもとより、炭疽病に強いため、減農薬や輸出向け生産にも活用が期待できます。
「90-2-213」は、一番茶摘採期が「やぶきた」と同じで、生葉の萎凋処理を行う「香り緑茶」製法により、花様の甘い香りを持つ煎茶を製造することができます。香りが特長の既存品種「香駿」を上回る「香り緑茶」適性を持ち、中山間地等での特徴ある商品開発への活用が期待されます。
今後、これらの新品種候補について、品種登録出願に向けた準備を進めていく予定です。
(茶業研究センター 茶生産技術科 研究員 櫻井 雅浩)
高位接ぎ双幹形の青島温州(上)、自動走行車両を利用した収穫作業(下)
ウンシュウミカンは3本主枝で樹形を構成する開心自然形が一般的ですが、樹が大きくなると樹冠の奥行きが長くなり、樹高が2mを超え摘果や収穫等の管理作業の省力化がなかなか進みません。
そこで、当センターでは接ぎ木するカラタチ台木の位置を通常より高い高さ30㎝の部分に接ぐ高位接ぎによる樹の小型化と樹冠を平面的に配置する2本主枝で樹形を構成する双幹形を組み合わせた高位接ぎ双幹形樹形の省力効果について検討しました。その結果、開心自然形と比べ双幹形樹形の方が収穫時間は短くなりました。また、樹冠下部の果実が少なくなり、体への負担がかかる中腰姿勢の時間が短くなりました。今後は園内を自動で走行する車両などと組み合わせさらなる作業時間の削減、労働生産性の向上に努めます。
(果樹研究センター 果樹環境適応技術科 上席研究員 江本 勇治)
お問い合わせ先
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